出陣前夜

七月七日金曜日、○八参○、エルヴォーグ中央城砦防衛任務出発。
それはすなわち、第2次エルヴォーグ制圧戦の第1作戦開始を意味する。
その準備の最終確認をしている俺は、使い込んだシルバーアーマーをしまい、肉体を凌駕する魂の力を呼び起こす革鎧を取り上げる。
盾を磨き、剣を磨き、仲間を護り全力で戦うためのアビリティも活性化させ。
お守りでもある武器飾りを確認し。
腰帯には、かの騎士から贈られた愛剣ライオンハート。同じ銘の剣を持つ彼は俺が防衛する城砦の奥、最終防衛ライン。
最前線に立つかと思いきや、いざというときに殿を務める覚悟はむしろ彼らしく。
俺の、いや俺達の役目は、その城砦最深部まで敵が押し寄せるのを防ぐことではなく、少しでも遅らせること。
こちらの援軍が到着することを敵には悟らせず、時間を稼ぐこと。
敵の城砦を占拠した形の我ら同盟軍は、護衛士として防衛に就く。そう見せかける罠を張る。その数345。
決して多くは無い。その全員が召喚獣を使える高レベル冒険者といえど。
敵は奸智に長けたノスフェラトゥ、そして使役されたアンデッド、死すれば有象無象の区別無く、アンデッドに、つまり敵の捨て駒に成り下がる。
そうなる可能性は否定出来ないが、決して死に行く戦いではない。命がけの陽動ではあるが、命を捨てることと同義ではない。
俺と同じ最前線の配置に同輩ルクス、後方に我が友ルワ、更に後方に我が同胞リーゲル卿がいる。
援軍に駆けつける部隊にも知己がいる。
援軍は必ず来る。怪我など恐れぬ。本当に怖いのは、死ぬかもしれない可能性に負けてしまう、その自らの弱き心だ。
怪我をしても生き残ればいいだけのこと。
何をおそれることがあろうか。俺には勝利の守護天使オルーガの加護もついている。
俺は彼女がくれた武器飾り--これをつけてから戦役を二回経験したが、そこでも依頼においても重傷にすらなったことが無い--にキスをし、立ち上がり前を見る。
行こう、戦地へ。
「ケイオス、お前もいるしな」
ふわりと赤いマントが翻る。
信じよう、未来を。自らの力を。友の勇気を。
我が同盟軍に勝利あれ。